サケとマスの違い

サケとマスの違いは、結論から言うと日本語における「鮭」と「鱒」には明確な区分はないようです。英語における「サーモンsalmon」と「トラウトtrout」は海へ降って海洋生活をするものと河川などで一生をすごすものを区別しています。しかし基本的に同じ種類であっても「河川に残る個体」と「海に降る個体」が発生する種も多く、サケ科においてはその区分さえも曖昧になるのが実情です。
キングサーモンの和名は「マスノスケ(鱒の介)」、サクラマスは「海に降る個体」を言い「河川に残る個体」をヤマメと呼びます。同じマスでもカラフトマスは全ての個体が海に降ります。

サケとマスの特殊性

先に述べた通り「鮭」と「鱒」は海と淡水域の双方を生活圏としているという他の魚にはあまり見られない特殊性があります。その為同じ種類でありながら「河川に残る個体」=陸封型(河川残留型)と「海に降る個体」=降海型が発生する事や通常は降海しない種類であってもその場の環境に応じて海に降りたりと例外が多くみられます。ヤマメ=サクラマス、ヒメマス=ベニザケ、ニジマス=スティールヘッドなどはそれぞれの陸封型(河川残留型)・降海型です。海に降りることが常だった種が氷河期により陸封化されたとも、種の保存を目的とした進化により海に降りるようになったとも言われています。その順応性ゆえに今まで生き残ってきたとも言えますが、なかなか簡潔に説明することが難しいのが「サケ科」の魚です。
降海型は「出稼ぎ」して母川に帰る?
降海型は大部分の栄養を海で摂取することになります。例えば河川に残留したヤマメが同じ3年間生きた場合、一般的には30cm程度ですが降海型のサクラマスは60cmほどに成長します。またシロザケなどは孵化後母川でほとんど栄養を取らずに海に出ますので、全てが海で摂取したものといっても過言ではありません。産卵行動終了後に自らの骸を川や山へ栄養分として還元をすることで森と川が豊かになり、更に健全な川が維持され、サケが増えるサイクルがあることは海外の調査で証明されています。

サケ・マスの種類

サケ目サケ科

学術的にみるとサケ科の魚はイワナ属、タイセイヨウサケ属、コクチマス属、サケ属など11属、六十数種からなるとされており、アユやシラウオは遠い類縁関係とされています。(注:諸説あるので異なる場合もあります)
サケ科の魚は地域、河川によって独自の変化(進化)を遂げたものや独特の生態を見せるものも多く、分類が難しい種といえるかもしれません。例えばイワナは日本に生息しているだけでもアメマス(エゾイワナ)、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ、キリクチ、ゴキと呼ばれる亜種がいます。しかし最も一般的なサケのシロザケ(アキサケ)をトキザケ(トキシラズ)、メジカ、ケイジ等と分類するのは亜種とは異なり漁業関係者や市場での通称です。これは性徴、成長過程の外見的特徴から分類して呼んでいるもので、学術的には一括りにシロザケとなります。ただシロザケでも地域により川に戻る時期が違うことが確認されています。これも地域の環境に適応した結果で、おそらくDNAに刻まれている情報に差異があると思われます。

太平洋サケ

一般に日本で食用にされているサケ・マスの中で天然物は、大きく分類すると「太平洋サケ」とも言われるシロザケ・キングサーモン・ギンザケ・ベニザケ・カラフトマス・サクラマスの6種類になります。その他にサケ科の魚として稀少種のイトウやイワナ・ニジマス(北米原産)などがいますが、食用として一般的なのは「太平洋サケ」とニジマスです。 最近海外で養殖された大西洋サケ(英名:Atlantic salmon)が販売されていますが、これは固有種の名称です。
サケ(シロザケ) 英名:Chum salmon, Dog salmon
日本で「鮭」といえばこの「サケ(シロザケ)」のことで、村上ではイヨボヤ、北海道ではアキアジとも呼ばれます。北太平洋に広く分布しておりロシア、北アメリカでも漁獲されます。 春に降海した稚魚は概ね3~5年の海洋生活を経て秋に川を遡上しますが、母川への回帰性はかなり高いとされています。 個体の年齢や特徴、漁獲時期などで「トキザケ(時鮭・時知らず)」「メジカ(目近)」「秋鮭」「ギンケ(銀毛)」「ブナ(ブナ毛)」「ケイジ(鮭児・鮭司)」など多数の呼称があります。 最新の学説ではサケとカラフトマスはサケ科の種としての分化が最も新しい種とされており、発生地域も日本近海とされています。この2種の他の4種とは異なる「孵化後ほとんど河川で餌をとらない」「例外なく海に降りる=母川依存性が低い」という生態が現時点でのサケ科の進化の最先端のようです。ベニザケのように特殊な環境(ベニザケの項参照)を必要とする場合は母川の環境変化が発生した場合に種の存亡に関わる問題になります。その点からすればサケとカラフトマスは高い環境順応性を有している事になります。
・秋鮭: 日本では秋に北海道・本州の母川に回帰することから、産卵を控え成熟した「サケ(シロザケ)」を「秋鮭」と呼んでいます。沿岸の定置網で漁獲される「ギンケ (銀毛)」から河川で採捕された「ブナ(ブナ毛)」までを広く「秋鮭」と呼びますが、一般的に流通されているのは「秋鮭」の中でも定置網で水揚げされたものです。弊社 永徳で塩引鮭の原料としているのもこの「秋鮭」です。
・ギンケ(銀毛) 産卵の1~2ヶ月前の「秋鮭」で、体表(ウロコ)が銀色に輝いているゆえに「ギンケ(銀毛)」と呼ばれます。「秋鮭」は淡水域に近づくにしたがってウロコが剥がれ、体表に「ブナ色」と呼ばれる婚姻色が現れますが、沖で漁獲された個体にはその特徴がでていないため、綺麗な銀色を呈しています。身の色もいわゆるサーモンピンクで通常の「秋鮭」と比較すると市場価値は高くなります。
・ブナ(ブナ毛): 淡水域に近づくにしたがってシロザケは産卵準備のためオスメスの二次性徴が顕著になり、婚姻色と呼ばれる「ブナの木」の木肌のような模様がでてきます。身をサーモンピンクにしている色素(アスタキサンチン)がオスは主に体表、メスは卵巣(卵)へ移るため、身の色が白っぽくなり、一般的には食味も落ちるとされているため市場での評価は低くなり、一般的に流通する事は稀です。河川に遡上した個体はほぼこの「ブナ(ブナ毛)」になります。
・トキザケ:(時鮭・時知らず) まだ産卵の準備をする前の個体なので、秋に漁獲される「秋鮭」に比べて豊富な脂質が特徴で、時季外れに獲れるため「時知らず」というのが名の由来です。 北海道近海で春から初夏に漁獲されるサケ(シロザケ)を「季節外れ」ゆえに「時知らず」「トキザケ」と呼んでいますが、本来は秋にロシアに帰るサケと云われています。近年の研究ではサケ(シロザケ)は大きくオホーツク海周辺を回遊する群とベーリング海・北太平洋アラスカ沖を回遊する群に分類されるようです。トキザケ(時鮭・時知らず)はオホーツク海周辺を回遊しロシアの母川に戻る群とする説が有力で、秋鮭として日本(北海道)に戻るサケとは異なる群とされています。
・メジカ:(目近) 産卵間近の秋鮭よりも成熟度の低い希少な鮭です。口先から目までの間隔が短く、目が近くに寄って見えることから「メジカ(目近)」と呼ばれています。本州の母川に帰る途中の個体が北海道で漁獲されたものという説が有力で、産卵1~2ヶ月前の「ギンケ (銀毛)」よりも成熟しきっておらず、顔立ちもより優しく見えるのが特徴で、秋鮭、ギンケ(銀毛)と比べても脂のりが良いサケです。
・ケイジ:(鮭児、鮭司) 鮭児、鮭司とも書きます。「ケイジ」も概ね4~5年で生まれた河川に帰る「サケ(シロザケ)」ですが、ロシアに母川があるサケの1~2年の幼魚という説が有力です。その幼魚が稀に北海道の河川に帰る群れに混じり接岸した個体とされています。 幼魚のため産卵に必要な筋子(卵巣)や白子(精巣)などの器官が未成熟でその分の栄養が消費されず、魚体全体に脂がのっているのが特徴です。極めて脂のりが良くトロにも優るとも云われ、サケの中では最高級の部類です。
カラフトマス 英名:Pink salmon
セッパリマス、アオマスとも呼ばれています。岩手県ではサクラマスと呼ぶこともありますが、和名:サクラマスとは全く異なる種類です。産卵時期の性徴が現れたオスの姿は特徴的で、背ビレの前部が盛り上がることから「セッパリマス」の名があります。日本でほとんどが北海道の河川に遡上します。成熟年数はシロザケより早く2年で母川に戻ってきます。2年サイクルで生活しているカラフトマスは大きく2群に分かれ、奇数年と偶数年では遺伝的に混じることは無いと言われています。しかし母川回帰率は他の種ほど高くはないため、他の河川との遺伝的混合は繰り返されてきていると言えます。
サクラマス 英語圏には生息していないため、Masu salmon、Cherry salmon 等と直訳されています。
ホンマス、マスとも呼ばれるヤマメの降海型です。一般的には降海型をサクラマス、河川残留型をヤマメとして区別しています。分布範囲は太平洋サケの中で最も狭く、ロシア、日本付近に分布しているのみで北アメリカ大陸周辺には分布していません。 通常は1年半ほど河川で過ごし春に海へ降り、約1年の海での回遊の後、翌春に母川に遡上します。秋に産卵活動をするまでの間はエネルギーの消費を抑えるため、淵などに潜みほとんど動かないとされています。一説には河川に戻ってからは餌を食べないそうです。サクラの咲く頃に再び川に帰ってくるので、サクラマスと称されています。 一般的に「マス」と呼ばれ「シロザケ」と並び日本では馴染み深い魚ですが、種としての分化(発生)はサケ科の中は比較的古い部類であるとされています。
ギンザケ 英名:Coho salmon(英別名:Silver salmon)
ギンケのシロザケを「ギンザケ」と呼ぶことあるので混同されることがありますが、英名:Coho salmon(英別名:Silver salmon)と言われるもので、独立した種類です。通常は孵化後1年間河川で過ごした後、海に降りて2、3年の回遊を経て母川に遡上します。孵化後しばらく河川で生活をする点はサクラマスに似ていますが、河川残留型はほとんどいないようです。 日本では三陸などで養殖された「養殖ギンザケ」も販売されています。日本の河川には天然物は生息しておらず、希に日本海域で漁獲される程度です。
ベニザケ 英名:Sockeye salmon(英別名:Red salmon)
他のサケと比較しても赤い身色が特徴ですが、産卵前の婚姻色が美しい紅色になることが名の由来と思われます。鮭の中でも最も美味しいと言われている種類です。ベニザケの陸封型がヒメマスで、北海道の一部に天然魚がいることから、かつてはベニザケの遡上があったと思われます。現在では日本で漁獲されるものはわずかで、これも回遊中のものであり日本の河川に遡上するものではありません。 通常孵化後の1~3年を湖で過ごし海に降り、2~4年の海洋生活の後母川に遡上します。海に河川でつながった湖という他のサケにはない特殊な環境が必要なため、母川回帰率はサケ科の中でも最も高いとされており、川の支流まで正確に遡上する特徴を持っているそうです。 食生活も特徴的でプランクトンを主な餌にしています。身の赤色が強いこともこの食性が関係しているようです。
キングサーモン 英名:Chinook salmon 英語地方名:King salmon、Spring salmon
和名マスノスケと呼ばれ僅かではあるもの日本でも漁獲されます。村上・三面川でも移植を試みたこともあるようですが、定着しませんでした。サケの仲間の中でも最大級に成長します。孵化後すぐに海に降る個体群と1~2年の淡水生活の後海に行く個体群がいて、どちらも海で2~5年過ごし、母川に戻ってきます。海に降りた翌年に帰ってくるオスもいて、体長50cmほどにも関わらず成熟しており「キング」に対して「ジャック」と呼ばれています。
ニジマス 英名:Rainbow trout
北アメリカ大陸原産の種ですが、日本でも養殖が行なわれています。一般に「ニジマス」の名で販売されているもの以外に、品種改良・養殖したものが「サーモントラウト」「トラウト」等と称して販売されています。 日本ではなじみはありませんが降海型はスティールヘッド(Steelhead)と呼ばれています。